日産自動車は、かつて日本の自動車産業をけん引し、数々のヒット車種を生み出してきた歴史ある自動車メーカーです。
しかし、近年では業績の悪化が進行し、市場での競争力を失いつつあるとの指摘がなされています。
2024年4〜6月の営業利益が9億円ほどと、前年度比99%減少と報じられました。
海外事業での不振、半導体不足、製品ラインナップの遅れ、内部統治の乱れなど、さまざまな要因が重なり合い、その影響を受けているとされます。
この業績悪化の背景について、4つの主要因を解説します。
海外事業の不振
近年、世界的に新車市場は競争が激化しています。
日産の海外事業は、特に中国と米国で苦戦しています。
2016年以降、中国市場は電気自動車シフトの影響もあり、販売台数が低下しています。
日中関係の悪化も影響し、日産の中国販売台数は大幅に減少しました。
中国や韓国の自動車メーカーは、価格競争力を武器に台数を伸ばしており、日産は価格面での競争力が失われています。
また日産は、新興国市場向けの低価格車開発に力を入れてきましたが、大きな成果を得られませんでした。
中国市場での電動車シフトのスピードについていけず、インドにおける事業計画も頓挫しました。
アメリカ市場での販売不振
アメリカでの販売が伸び悩んでおり、競争激化への対応や在庫の適正化のために、販売費用やマーケティング費用が増加しています。特に、在庫の増加に伴い、販売奨励金が急増し、収益を圧迫しています。
新型車「アリア」などの投入が遅れ、販売台数や収益に影響を与えています。
北米市場では、競合他社が新モデルを投入する中で、日産は旧モデルを売り続けざるを得ない状況にありました。
このため北米市場で、営業損失を計上する事態となっています。
日産ディーラーでは、平均利益が900万円(円換算)と70%も減少し、38%が赤字転落しています。
また、2020年以降、米国市場ではSUVの人気が高まっているものの、日産のSUVラインアップは、他社と比べて競争力に欠けています。
半導体不足による新車生産の停滞
日産自動車の業績悪化の一因として、半導体不足による新車生産の停滞が挙げられます。
この問題は、特に2021年以降、世界中の自動車メーカーに影響を及ぼしており、日産も例外ではありません。
半導体は現代の自動車において不可欠な部品であり、エンジン制御、運転支援システム、インフォテインメントシステムなど、多くの機能に使用されています。
半導体不足が発生すると、生産ラインが停止したり、生産台数が減少することになります。
日産はこの影響を受けており、特に新型車の発売や生産計画に大きな支障をきたしました。
半導体供給の不安定さは、日産の生産能力を制限し、新車販売の機会を逃す要因となっています。
さらに、日産は半導体不足に対処するために代替調達先を開拓し、中期的な供給契約を結ぶなどの施策を講じていますが、それでもなお供給状況は不透明です。
このような状況下で、新車の生産が滞ると、販売台数が減少し、結果として売上高や利益にも悪影響を及ぼします。
特に、高付加価値車や新型車の生産が影響を受けたことで、利益率の高い車種の販売機会を逃すことになりました。
また、日産は新型キャシュカイなどの重要モデルの発売を予定していましたが、これらも半導体不足の影響で生産が遅れました。
このような新車の供給不足は、市場での日産ブランドの競争力にも影響を与えています。
競合他社が新モデルを投入する中で、日産が市場シェアを失うリスクも高まっています。
総じて、半導体不足は日産自動車にとって深刻な課題であり、新車生産の停滞は業績悪化の直接的な要因となっています。
今後もこの問題が解決されない限り、日産の業績回復は難しいと考えられます。
半導体不足やサプライチェーンの混乱、地政学リスク(米中貿易摩擦やウクライナ戦争など)によっても大きな影響を受けています。これらの要素は、予測不可能でありつつも事業計画に大きな課題をもたらしています。
製品ラインナップの遅れ
市場のニーズが急速に変化している中で、日産の製品ラインナップがそれに迅速に対応できていないことがあります。
日産自動車の業績悪化の一因として、ハイブリッド車(HV)の製品ラインナップの遅れが挙げられます。
日産は独自のハイブリッド技術「e-POWER」を展開していますが、プラグインハイブリッド車(PHV)の開発が遅れており、2020年代後半までに技術を確立する見通しです。
この遅れは、他社に比べてPHV市場への対応が後手に回っていることを示しています。
特にアメリカ市場では、ハイブリッド車の不在が深刻な課題となっており、EVの販売が失速する中でHVの需要が高まっています。
日産は「e-POWER」をアメリカ市場に投入する予定ですが、その実現は2026年度以降になる見込みです。
このため、競合他社に対して遅れをとっている状況です。
また、日産は過去数年にわたり生産計画のストレッチやブランド力低下によって旧モデルが売れ残る事態にも直面しています。
このような背景から、新しいモデルの投入が遅れ、結果としてハイブリッド車ラインナップ全体にも影響が及んでいます。
日産のハイブリッド車市場における競争力を維持するためには、迅速な対応と新しいモデルの投入が求められています。
特に、PHVやHV市場への迅速な参入が今後の成長に不可欠です。
環境規制の強化や消費者の環境意識の高まりを考えると、ハイブリッド車ラインナップの充実は重要な課題であり、この分野での遅れは日産にとって大きな痛手となっています。
内部統治の遅れ
日産自動車の業績悪化は、さまざまな要因が複雑に絡み合って起こっています。
その一因として指摘されているのが、内部統治の遅れです。
日産は、過去から経営戦略や内部文化に問題を抱えており、元幹部からは本質的な問題解決に取り組まない姿勢が指摘されています。
具体的には以下のような点が挙げられます。
コストカットの押し付け
日産は、コスト削減を図るため、下請け企業に過度な値下げを要求することが指摘されています。
日産は2021年から2023年にかけて、36社の下請け業者に対して約30億円の減額を行っていました。
これは公正取引委員会によって不当とされ、再発防止を求める勧告が出されています。
このようなコスト削減は短期的には利益をもたらすかもしれませんが、下請け企業の経営を圧迫し、結果的に品質低下や納期遅れにつながる恐れがあります。
またこれは、短期的には効果があるものの、長期的には部品の品質低下やサプライチェーンの弱体化につながる恐れがあります。
ブランド力と収益力の低下
日産は競合他社に比べて高い販売奨励金を支出しており、2023年6月には1台当たり約4000ドルに達しました。
インセンティブに頼った短期的な販売増加策が、結果的にブランド力と収益力の低下を招きました。
特に北米市場では、過剰なインセンティブ付与がブランド力と利益を圧迫しています。
組織の硬直化
長年の企業文化により、社員の自発的な横の連携や問題解決に対する意欲が削がれていました。
これが新たな課題への対応を遅らせる要因となっています。
サプライヤー支援のコスト増
取引先の部品メーカーの支援に多額の費用を計上せざるを得ない状況に陥っており、これが利益を圧迫しています。
これらの問題は、単に財務的な課題だけでなく、組織文化や経営哲学に根ざした深い問題であり、その解決には時間と抜本的な改革が必要です。
これらの問題を解決するためには、日産は内部統治の強化とサプライチェーン全体での協力関係の再構築が必要です。
透明性のあるコミュニケーションを促進し、下請け企業との信頼関係を築くことが重要です。
また、長期的な視点での投資戦略を見直し、新たな技術革新や製品開発に注力することで、市場競争力を回復させることが求められます。
しかし、その成果が表れるまでには、一定の時間がかかると予想されます。
まとめ
日産自動車の業績悪化は、複数の要因が複雑に絡み合った結果です。まず、海外事業の不振が大きな影響を及ぼしています。
特に北米市場では、在庫の増加と販売奨励金の高騰が収益を圧迫し、営業利益が前年同期比で99%減少するという厳しい状況に直面しています。
次に、半導体不足が生産能力を制約し、新型車の投入が遅れることで販売台数の減少を招いています。さ
らに、製品ラインナップの遅れも消費者の関心を引くことができず、競合他社に対して劣位に立たされています。
最後に、内部統治の乱れが組織全体の方向性を不明瞭にし、外部環境への適応力を低下させています。
これらの要因は相互に関連し合い、日産自動車の業績悪化を引き起こしています。
今後はこれらの課題に対処し、持続可能な成長を目指すための戦略的な見直しが急務です。